2017.10.30

医療機器におけるマーケティング -カスタマージャーニーとP2Pマーケティングについて-

本ブログをご覧いただいている皆様、こんにちは。事業開発を担当している蛭田(ヒルタ)と申します。日に日に涼しくなってきましたが、皆様体調はお変わりなく、お元気にお過ごしでしょうか?さて、今回のブログでは医療機器の開発を終え、いざ販売する製品におけるマーケティングの果たす役割とこの数年で起きている変化について、皆様と一緒に考えていきたいと思います。

企業においてのマーケティングの役割とは?
マーケティングの具体的な役割については、読者の方々はそれぞれ違ったご意見をお持ちであるかと思います。また、時代によって、マーケティング手法そのものが変化しているので、今お考えのマーケティングそのものが、10年後には古くなっていると思います。

ドラッカーの『マネジメント』*1では、企業には2つの基本的機能があり、それらを遂行していくことが成果をもたらすとされています。1つの基本機能はマーケティング、もう1つはイノベーションです。さらにこの2つの基本機能に加え、「生産性の向上」が顧客を生み続ける基本的な資源の獲得につながり、企業の最終的なゴールである「顧客を創造する」と述べられています。つまり、マーケティングとは企業の基本的な機能を担う上で、とても大事な役割を果たしていると言えます。
これに関して、私は「顧客の創造」こそがマーケティングの目標であり、最も重要な役割であると考えています。つまり、どのようなニーズがあり、そのニーズを満たすためにはどのような製品が必要で、いかに効率よく生産し、顧客にお届けするか。さらに製品を理解してもらうためにはどのようなメッセージが良いのかなどと一気通貫して考えることがマーケティングのタスクなのではないでしょうか。このマーケティングのタスクを追求していくことが、会社におけるマーケターの役割であると考えます。

 
カスタマージャーニーとは?
さて、マーケティング手法そのものが時代によって変化していると上記で記しましたが、実はカスタマージャーニーの変化が、マーケティングを大きく変えていると個人的には思います。カスタマージャーニーとは、その名の通りで、顧客がどのようなタッチポイントで製品、あるいはキャッチコピーなどに興味を持ち、購入意欲を喚起され、実際の購買に至るのかという一連のプロセスのことです。

実はこのカスタマージャーニーはデジタルやソーシャルネットワークの流れを受けて、フレーム自体が大きく変わりつつあります。フィリップ・コトラーの『マーケティング4.0』*2によると、下記の図のとおり、従来のカスタマージャーニーは認知(Aware)→態度(Attitude)→行動(Act)→再行動(Act Again)の4Aで定義されていました。思い浮かべやすい例で言うと、例えばラグジュアリーブランドなどは比較的今でもこのジャーニーを通るのではないでしょうか?CMや店舗などでブランドを知り、「高級で素敵」とインプットされ、欲しくなる。1回買ったら、やっぱりもっと欲しくなり、再購入となります。個人の行動で完結するのが、ソーシャル以前のカスタマージャーニーです。

図1
図: カスタマジャーニーの変遷

しかし、現在は典型的な4Aのジャーニーは大きく変わり、認知(Aware)→訴求(Appeal)→調査(Ask)→行動(Act Again)→推奨(Advocate)の5Aにて定義されるとコトラーは分析しています。入口となる認知の部分は定義そのものでは同じですが、次に訴求(Appeal)とあり、これはあるブランドを「いいな」と思う段階です。ソーシャル以前では「いいな」と思った時にはそれは態度として決まり、行動への繋がっていくパスになっていましたが、現在では「いいな」と思ったら、まずは調査(Ask)の行動を取ります。

これは、共通の製品を使っている友達に感想を聞いたりするレベルではなく、共通する製品についての知識を持っている全世界の「仲間」に事前の調査を行う訳です。思っていたとおりの製品であれば行動につながります。いざ使ってみて良ければ再購入ももちろんあり得ますが、ソーシャル時代は個人で完結するのではなく、個人が推奨(Advocate)し、良かったら良かったと強力な宣伝をしてくれる、悪かった場合では逆に悪い宣伝をされてしまいます。このように考えると、ソーシャル時代は調査(Ask)と推奨(Advocate)がソーシャル以前と比べ大きく変わってきていると考えられます。すなわち、ソーシャル時代は個人と個人とのつながりだけではなく、究極的に個人と社会が密接につながっていると言えます。

 
P2Pマーケティングは強い?
ではこのカスタマージャーニーの変化は医療機器の業界でも同様に起こっているのでしょうか?私は間違いなく、同様の変化がこの数年で静かに起きていると思います。医療機器メーカーにおいての最終的な顧客は患者であることは疑いようのない事実ですが、医療機器などを使う/使わないと決断を下すのは医師や医療従事者となります。ご存知のとおり、医師同志のネットワークとは非常に緊密で、FacebookやTwitterなどで非常にタイトに連携しています。つまり、新しい情報などは瞬時にソーシャルによって拡散されていきます。注目すべきなのは医療機器の業界においてのソーシャル時代のカスタマージャーニーは、考え方によっては一般消費財の業界で知らない人同志が匿名的(Facebookは別)につながっていることよりも、より緊密なつながりがあるという点です。

新しく良い製品であれば、医師らからつながっている他の医師達に、場合によっては患者にも情報が行き、「仲間が使っているから興味がある」と興味を持ち、カスタマージャーニーの流れに乗ることになります。当然、広告やメーカー側から聞いた話しよりも、利害関係が無い仲間からの情報はより信用に足ると判断されます。この強力な仲間意識に着目し、マーケティングを進めていく手法がPear to Pearマーケティング(P2P、ピア トゥー ピア)と言われる手法です。日本語で言う“口コミ”に当たるもので、外食総合サイトなどを思い浮かべていただけるとわかりやすいかもしれません。どのレストランが美味しいのか企業側(つまりレストラン)から聞くのではなく、自分自身と同じ立場(もしくは近い立場)の人、つまりPear(同僚等)からレストランの評判を聞く。医療機器でも同じことが言え、同僚や仲間の先生から、新しく発売した医療機器の評判や口コミを仲間内で調査(Ask)し、それを実際に使って良いと思ったら推奨(Advocate)する。このように雪だるま式に自社の製品をプロモートしてく手法は非常に効果的であると考えられます。

このように、理論的に解説することは難しいことではなく、恐らくマーケティングを学んだことが無い方でも想像がつくことと思われます。他方、一番難しいのはこれを実践していくことです。

 

JOMDDが果たせる役割とは?
JOMDDにおいては「ハンズオン」をキーワードに日々医師を始めとする先生方と連携し、新しい医療機器を世に届けようと邁進しています。JOMDDは「今は誰にも見えない、未来の顧客を創造する」ための戦略を提供するだけでなく、パートナーの医師の皆さんや企業に対し、実際に実務を提供する「ハンズオン」でお手伝いします。手前味噌になりますが、JOMDDその顧客を創造していく手法などについて、マーケティングを含め、さまざまなバックグラウンドや見地を兼ね備えたメンバーを有しております。

今後はまた違ったマーケティングの理論や手法などを紹介して参りたいと思いますので、乞うご期待!

*1:ドラッカー、上田 惇生(翻訳) (2001) 「マネジメント[エッセンシャル版] – 基本と原則」
*2:コトラー、カルタジャヤ、セティアワン、恩藏直人 (監修), 藤井清美 (翻訳) (2017) 「コトラーのマーケティング4.0 スマホ時代の究極法則」