2022.02.01

英国大使館主催のデジタルヘルスイベントから読み解く最新デジタルヘルス事情(後編)

 皆様こんにちは。
 前回のブログ(https://jomdd.com/2022/01/3513.html)に続き本ブログでも、英国大使館・英国総領事館 国際通商部・株式会社デジタルガレージ主催「英国デジタルヘルス・バーチャル通商ミッション」で紹介された英国デジタルヘルス・スタートアップを紹介していきます。

5.Mirada
https://mirada-medical.com/
(概要)
  Miradaは、放射線治療計画のワークフローに新たなレベルの効率化と高い精度をもたらす一連の製品を提供しています。RTxは、放射線治療従事者にとって信頼性が高く、正確で包括的な画像登録および画像解析を行えるソフトウェアパッケージです。RTxは、コストのかかるTPSに縛られることなく、堅牢な画像登録ワークフローソリューションを含む高度な画像ワークフローを提供します。
  DLCExpertは、放射線治療のワークフローにAIによる自動化の力を加味します。最先端のDeep Learning技術を用いて、標準的な解剖学的ターゲットだけでなく、危険臓器(OAR)の輪郭を自動的に描画し、OARの輪郭の一貫性と正確性を担保しつつ時間をも節約します。DLCExpertの輪郭は、コンセンサス・ガイドラインに沿って臨床専門家がキュレーション(収集、選別、鑑定)した数百もの高品質なデータセットに基づいて構築されています。

(内田コメント)
 がんに対する放射線治療の支援ツールを提供しているスタートアップです。既に、東洋メディック社を製造販売業者として日本でも製品を販売しています。
https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/md/PDF/480378/480378_30100BZX00206000_A_01_02.pdf
 コンセプトが類似の製品は国内でも散見されます。放射線治療分野や整形外科の手術シミュレーション分やなどはヘルスケアDxが進みやすい領域の1つだと思います。一番のメリットは時間の節約だとのことです。その分競争も激しいと思いますので、どのようにビジネスをスケールしていくのかが鍵となりそうです。Miradaはオックスフォード大学発スタートアップとして2001年に設立されています。既に100名を超えるスタッフがいるとか。。。日本でも承認を取得しているのにも納得ができます。

6.Pangaea
https://www.pangaeadata.ai/

(概要)
  Pangaea Data社は、ロンドンに本社を置き、サンフランシスコと香港にオフィスを構えています。パンジェアは、AIを活用したソフトウェア製品を提供しており、未診断の患者を含めて50%以上の適切な患者を見つけ、規制当局への報告書のためのクリニカルナレーションを自動生成することで、時間を80~90%短縮できることが実証されています。これは、同社が開発した教師なしの自然言語処理(NLP)と世界初の自然言語生成(NLG)の手法によって実現されています。これらの手法は、テキストやマルチモーダルな健康データからインテリジェンスを抽出して要約するもので、大規模かつプライバシーを保護した形で統合されています。同社の製品は、インパクトのある査読付き出版物を通じて、85~90%の精度を実証しています。これは、GPT-3のような一般的な言語モデルや、教師ありNLP、リレーショナル抽出アプローチよりもはるかに高い精度です。
 同社の製品は、製薬・ヘルスケア業界でのスケールアップに成功しており、世界的なカンファレンスで一流の臨床医や科学者によって発表されています。創業者たちは、その仕事を通じて1億3000万ポンド以上の研究費を確保しています。お客様のサクセスストーリーや査読付き出版物は、同社のウエブサイトでご覧いただけます。そちらでは、文脈、強化学習、そして「人間の専門家(臨床医)をループに入れる」ことによって有効性の証拠を示し、代替アプローチとの比較を提示しています。

(内田コメント)
 言語系のAI技術を医療応用したスタートアップです。提携している医療機関の患者カルテ、退院時サマリーなどから情報を取得し、例えば、ある希少疾病患者がどの病院に所属していて、既にどんな治療をしているかなどの情報を取得することができます。言語系AI技術に加え、患者データに対するアクセス(データベース)を強みにすることで当該領域のプラットフォーマーになりえる案件だと感じました。まだ日本語化はできていないと思いますが、日本にもこういうスタートアップが出てくるかもしれませんね。

7.Smart Respiratory
https://smartasthma.com/
(概要)
 喘息は不治の病であり、生涯続く為、管理することが大切です。Smart Respiratory社は、インペリアル・カレッジ・ロンドンに拠点を置いています。私たちの目的は、人工知能とデジタルヘルスを用いて喘息患者の生活を改善することであり、Healthcare UKによって英国のデジタルヘルス企業トップ100の1つとして認められました。当社は、スマートフォンに直接接続できるピークフローメーターを世界で初めて提供した企業です。これを受けて、私たちは喘息患者の生活の質を向上させるために、2つの手頃なデジタルヘルスソリューションを開発しました。
 1つ目は、スマートフォンとSmart Peak Flowデバイスを使用して、喘息患者が自宅で症状を管理し、そのデータを医師とデジタルで共有することができる自己管理ソリューションです。
 2つ目は、遠隔医療プラットフォームで、医師が患者のピークフロー、吸入器の使用、鼻づまり、吸気流量、吸入方法などを24時間365日監視し、確固たるデータに基づいて医療上の判断を下すことを可能にします。
 この最先端技術は、3つのセンサーと人工知能を用いて、天気予報のように明日の喘息を90%の精度で予測します。パンデミック以降、遠隔医療の利用が急速に加速しています。

(内田コメント)
 概要にも記載がありますが、喘息管理に用いるPeakflowを簡単に測定できるデバイス&アプリを提供しているスタートアップです。吸入治療薬の使用状況をモニターすることもでき、これらを使って喘息発作の予測なども行っています。
 こちらは、患者向けDxソリューションであり、機器も組み合わせた、コンセプトがわかりやすいものとなっています。今後はこうしたデバイス+AIアプリを在宅医療にというものが多く出てきそうな予感がします。

8.Isansys
https://www.isansys.com/

(概要)
  PSE(Patient Status Engine)は、2012年に初めて市場に投入され、CEマーク(クラスIIa)およびFDAクラスII認証を取得した完全なエンド・ツー・エンドの医療機器であり、かつ進化したプラットフォームです。目立たないワイヤレスウェアラブルセンサーを使用して、家庭や医療現場で新生児、小児、成人のリアルタイムの生理学的データを継続的に収集、分析します。収集するバイタルサインは、心拍数、心拍変動(R-R間隔)、呼吸数データ、腋窩温、活動量、姿勢、SpO2、非侵襲の血圧(BP)などです。これらのデータを、統合された早期警戒スコアやその他の予測指標と組み合わせて使用し、生理学的データが選択されたパラメータから外れたときに医療従事者に警告を発し、患者のケアと安全性を高めるためのタイムリーな介入を可能にします。
  PSEは既存の医療プラットフォーム(EMRなど)と簡単に統合できるプラットフォームです。ベッドサイドや中央の遠隔モニタリングステーションにデータを表示し、ラップトップやタブレット、スマートフォンに安全に配信することで、多忙な医師や看護師のために常に「見える化」します。セキュリティとプライバシーはPSEの重要な特性であり、患者データはケアチームのみが見ることができ、Isansysを含む、いかなる第三者もアクセスできないようになっています。

(内田コメント)
 ウエアラブルデバイスのスタートアップです。基本的には病院向けのツールで心拍、体温、小児向け、カフあり血圧計という4つの商品があるようです。これらはベッドサイドで煩雑になりやすい、ワイヤーがない点、電子カルテなどにつながることで人的リソースの効率化につながる点などがメリットとされています。こちらのコンセプトは既に多くの企業が製品化に乗り出していますので、その中での差別化がとても重要だと感じました。

まとめ
 皆様、今回の英国大使館主催のデジタルヘルスイベントでは、多彩なヘルスケアDxスタートアップがご紹介されました。ヘルスケアDxには本当に色々な可能性を感じます。他方、どんなプロダクトが実際に医療現場やヘルスケア領域で重用され、ビジネスとしても持続可能なのか、まだまだこれから広がっていくように思います。ヘルスケアDxはものによっては開発時間も長くなること、また、既存の医療システムを変えていく必要があるものであれば、そのプラクティスチェンジには時間を要することから、このプロダクトはよくてこのプロダクトは成功が難しいという結論を出すのが容易ではない領域だと思います。その見極めをどうしていくのか、待っていては出遅れる可能性もありますので、医療の本質の見極め、マーケットの見極め、開発プロセスの見極めなど、実は俯瞰的、かつ丁寧にこの領域全体を見通せる眼力がとても重要のように思います。まだしばらくは様々なプロダクトが世に出てくると思います。眼が離せませんね。