※本ブログはLINK-JのWebサイトに弊社が寄稿した内容を、許可を得て転載しています
(LINK-J サポーターコラム#6『WITHコロナ下において医療機関への営業活動は変化するか』:https://www.link-j.org/interview/post-2890.html)
■はじめに
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、これまでの経済、社会のあり方は大きく変わろうとしている。この未曽有の感染症禍において、特に大きく影響を受けた業態の一は医療であろう。たった1つのウイルスの感染拡大により多くの重症者を含むウイルス感染患者の入院が急増し、多くの医療機関で対応能力の限界を超えた。また、医療機関での感染を恐れる非感染患者も通院を控え、混乱した。その結果、医療機関が機能不全に陥る「医療崩壊」は目前であった。幸い緊急事態宣言の発令もあり第一波ではその危機を乗り越えることができた。しかしながら、医療崩壊寸前の状態では、医療機関は院内クラスターを防止するため様々な規制を導入し、不要な面会は入院患者への面会であれ規制をかけ、当然、出入りする業者にも規制がかかった。
■医療機関への営業活動
医療機関を訪問する営業としては主に以下の5業種がある。
① MR(Medical Representative):自社の医薬品の「情報提供・収集」
② MS(Marketing Specialist):医薬品の「販売」と「情報提供」
③ 医療機器営業:自社医療機器の「情報提供・収集」
④ 医療機器卸業:医療機器の「販売」と「情報提供」
⑤ メディカルサプライ営業:医療消耗品等を供給
このうち②MSと④医療機器卸業⑤メディカルサプライ営業は商品の納入業者という側面もあり、医療機関の機能を保つために不可欠であるため、今回は営業訪問のみという意味で①MRと③医療機器営業について時代背景を踏まえて考えてみたい。
■面会規制
2011年に日本製薬工業協会が「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」を制定し、2014年度からは追従するように日本医療機器産業連合会が「医療機器業界における医療機関等との透明性ガイドライン」を策定した。時期にずれはあるものの、顧客が同一である製薬と医療機器業界は足並みを揃えてルールを作ってきた。
2019年4月1日より運用開始された「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」はMRに対する監視体制を強め活動の幅を制限するようになった。その理由は医療用医薬品の適正使用に影響を及ぼす活動が明るみになったためだ。そのため徐々にではあるが医療機関への立ち入り、面会に対する規制が強化されてきている。製薬会社のみがこのガイドラインに該当するかというと歴史的背景からも今後医療機器業界にも当然のごとく浸透していくだろう。
そして2020年4月13日には日本製薬団体連合会が新型コロナウイルスの感染拡大を受け、MRの医療機関訪問を自粛するよう傘下団体へ要請したことも向かい風となり、MRと医療機器営業は医療機関への訪問が更にはばかられる事態となった。
この先、いわゆるWITH(アフター)コロナの世の中において、医療機関における営業活動はどう変化するだろうか。
■アナログ営業からICT(Information and Communication Technology: 情報通信技術) の導入へ
2020年4月7日付の厚生労働省の事務連絡により、患者から電話等により診療の求めを受けた場合、当該医師の責任の範囲で「情報通信機器を用いての診断や処方が可能」となった。(麻薬、向精神薬の処方を除く)
国が医療機関への来院を抑制する方針を打ち出したことにより、医療機関の訪問規制はより敷居が高くなることが予想される。その流れを受け、医療メーカーは今まで以上にエムスリー社やケアネット社に代表されるインターネットを活用したサービスの提供に力を入れた。2020年3月中旬以降堅調に株価を伸ばしているのはこのような背景があるにちがいない。
それと並行して情報提供用ICTの導入も進んだ。今までもICTを駆使し専門の部署が営業対応する企業もあったが多くの顧客はそれを受け入れてこなかった。その理由の多くは何かあれば担当営業に聞いたほうが安心できるし検索する時間が省けると考えていたからだろう。感染抑制のためこれまでの様に対面での情報提供が困難になってきた今、この変化に対応しなければならない。営業活動の一部にICTを活用することで医療メーカーとしても医療機関としても感染症のリスクが低減できる。ICTにつぎ込んだ投資額も「膨らんだ人件費を削減でき、今までのような医療機関への営業職は不要になる」と感じている人は少なくないだろう。
※今後の営業としての価値を探るため、ICTを用いて代替できるか営業活動を列記してみる。
表には挙げなかったが、医療機器業公正取引協議会規定の立会い(事業者が医療現場に立ち入り、情報提供や便益労務を行うこと)も、新規納入時などの制限はあるが営業成績に直結するため歴史的にも多く行われてきた。このような習慣も今回コロナを経験したことでICTを介入させ変わらなければならないのである。
■営業効率の向上「ハイブリット営業」とは
ICTで代替困難な活動がある一方で代替できる活動もあることが分かった。
WITHコロナ下では、営業職自らICTを活用する活動と、従来通り訪問で行う活動とその内容は2極化していき、「ハイブリット営業」という形が自然と見えてくるのではないだろうか。
例えばハイブリッド営業が加速するだろう業務の1つに、ICTで対応可能な医療機関側からの問い合わせ対応がある。ICTを利用してもらうには、顧客との人間関係と納得感のある説明等柔軟な対応が必要となる。人間関係構築の出来ている担当営業がICTの利用を浸透させる事ができれば、営業効率は飛躍的に伸び数字に顕著にあらわれるだろう。また、新任者にはハードルが課せられると予想する。
一方で、デモなど物体が伴う説明や提案や、認知されていない情報の提供については、積極的にプロモーション活動を行う上で対面の方が価値の高い活動である。
「ICTでできる活動」と、「対面が必要な活動」のどちらが効率的かつ納得感を得られるかを想定し使いこなす「ハイブリッド営業」が広がることは間違いない。
■おわりに
時代の変化に気付きすばやく対応することこそ、ビジネスチャンスをつかむ最良の方法であるという事は歴史が証明している。ICT導入の加速はコロナによる面会規制や自粛という特異な理由ではあったが、これはテクノロジー導入のきっかけであり今後我々の想像を超える未来が医療の分野にも待ち構えているだろう。
今回の「ハイブリッド営業」はあくまで短期的な予測ではあるがWITHコロナ下において、習慣として取り残されていた営業スタイルや環境は昨今の最新技術を求めるかのようにICTを駆使する方向へと飛躍的に変化していくはずだ。コロナ以前からあった医療機関の面会規制は加速する一方、ICTを駆使することで効率的な営業活動が可能となり生産効率は飛躍的に伸びることで、営業1人当たりの価値は今よりも上がっていくのではないだろうか。
今回、ある意味イノベーションの下流である、営業にフォーカスを当てたが、こうしたWITHコロナでの変化はイノベーションの上流にも少なからず影響があると思う。例えば、アカデミアの研究に関して言えば、緊急事態宣言下では大学のラボに行って実験することができず、かといって、リモートワークができない研究や実験は多い。アカデミアにおけるWITHコロナの在り方も変化が訪れるに違いない。