皆様、こんにちは。JOMDDで知的財産を担当している篠田と申します。
最近、医師の方から、「医療機器のアイデアをもっているが、どの段階でどう特許を出願すべきなのかがよく分からない」というご質問をいただくことが増えています。そこで、そのヒントとなる情報をまとめました。
医療機器の最大市場である米国では、大手医療機器メーカー各社が、年間数百件の特許を取得しています。また、市場の成長に伴い、特許訴訟の損害賠償額も年々高騰しており、平均5800万ドルに上るという試算もあります ※1。このように、医療機器を上市させるには長い時間と投資を要するため、各社が特許取得に励んでおり、特許侵害による事業停止のリスクもあります。したがって、医療機器の事業開発には知財戦略が必須となります。これは、製販企業のみならず、医師の方であっても例外ではありません。最終的に製販企業に事業化を任せられたいのであれば、相手の考え方を理解することが、ゴールへの近道となります。
まず初めに、特許を受けるための要件の概要を示しました。図1をご覧ください。ご自身の発明が特許を受けるためには、様々な要件を満たす必要がありますが、大前提として、特許法上の発明であること、新規性・進歩性があること、産業上の利用が可能であることが必要です。ここでありがちなのは、ご自身のアイデアが可愛いあまりに、盲目的になってしまうことです。何か良いアイデアを発明したと思ったら、まずはその背景にある課題と解決手段を簡単で構いませんので、図と文章で表現してみてください。そして、同様の先行製品・先行技術がないか、特許や論文、インターネットのキーワード検索等によって、しっかりと調査することが必要です。それらと比べた一致点・相違点を見極め、なぜ優れているのかを、図や文章を用いて比較することで、アイデアが洗練されます。
なお、一口に「医療機器」といいましても鋼製小物からプログラム医療機器まで様々です。図2に、特許法上の「発明」を分類しました。まず、「発明」は、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいい、「物」と「方法」に大別されます。例えば画像診断システムや、それらの部品、プログラムは、「物」の発明に該当します。他方、それらの生産方法や使用方法は、「方法」の発明に該当します。分類によって特許対象か否かが異なり、特にヒトを治療する方法は、日本等では特許の保護対象外ですのでご留意ください。
最後に、世界各国で特許を取得するための大まかな流れを説明します。通常、医師から製販企業に事業化をバトンタッチする際に、日本の特許しかないと市場が限られているのでその時点で交渉が終了してしまうことがあります。かといって、医師が個人で世界各国の特許を取得することは費用負担も大きいため、稀です。
そこで、国際出願の活用が考えられます。図3に示すように、日本で出願をした日を基準(優先日)として12ヶ月以内であれば国際出願を行うことが可能です。これにより、優先日から主に30か月以内に、各国への特許出願(国内移行)を行うことができるようになります。加えて、移行期限までに、早期審査や国際調査、予備審査等の見解を十分にふまえて、本当に各国で特許されそうか否かを精査し、GO/ NO GOの判断をすることが有用です。各国移行の期限内に、このような肯定的な見解が示されていれば、企業への導出も後押しする材料となります。
ただし、安易な契約によって、思い通りに開発が進まなくなってしまうリスクもありますので、契約内容には十分にご留意ください。また職場(医師の場合は、主にご所属の大学・医療機関等)の規定によっては、発明が職務発明に該当し、個人で出願できないこともあります。したがって、弁理士や弁護士などの専門家に早めにご相談し、各国移行までを見据えた上で手続きをすることが肝要です。
手前味噌になりますが、JOMDDは、日本発の医療機器インキュベーターとして、医師が発明されたアイデアを、革新的な医療機器として世界に届けるために、国際特許の専門家とのネットワークを構築しております。もし、医療機器のアイデアをお持ちの場合には、ぜひこちらのフォームよりご登録いただければご支援いたします。
出典リンク:
※1: https://www.pwc.com/us/en/forensic-services/publications/assets/2017-patent-litigation-study.pdf