皆さん、はじめまして。チーフメディカルオフィサーの薬師寺です。
この記事では私自身の経験を踏まえ、今後の日本の医療開発の進むべき方向について私見を述べてみたいと思います。
まずは医療産業における主なキープレーヤーである三者(医師・医療開発会社[製薬・医療機器含む]・保険者)の視点の違いから説明したいと思います。
・医師
病院勤務の医師が保険点数の計算や仕入れ値、償還価格などの知識を要することは通常ありません。医師は治療行為の決定権者、事務方は勘定の専門家、と役割分担されているのです。そのため、医師はコストを意識することなく治療方針を決める事ができ、”より良い”治療を患者に提供することが可能となっています。
・医療開発会社
アイデアが形になってビジネスとして成立するまでには、試作品の開発、知的戦略の立案、動物試験・臨床試験・治験の設計、製造販売体制の構築、国内外での事業化、という非常に長いプロセスを経ることになります(弊社ブログ参照)。その際に多くの人的・金銭的リソースを要することは想像に難くないでしょう。一つの製品を成功させ、そして次のサイクルを回していくためには売り上げを最大化することが一つの大きな目標となります。当然競合他社との差別化も必要ですし、原価を押さえることや卸値設定も重要なキーとなってきます。
・保険者
病院受診時にお金を支払う時、個人負担はあるものの大半の支払いをしているのは保険者(健康保険組合や自治体)です。お金を支払う側としては、なるべく少ないコストでより多くの人の健康を維持するのが理想的です。これらのお金は健康な人と不健康な人が等しく負担していますので、健康な人が病気の人の医療費を支える構図と言えます。また年齢が高くなるに従って病気も増えていきますので、現役世代が高齢者の支払いを行っているという見方も出来ます。
以上をまとめると、1.医師は価格関係なく良い物が欲しい、2.企業は良い物を十分に利益の出る価格で使って欲しい、3.保険者はなるべく適正な価格で病気の方に医療を提供して欲しい、という次の図のような三者の意図が見えてきます。
このオーバーラップする部分の薬品または医療機器が理想的だということになります。つまり、十分な治療効果・効率化・安全性があり、妥当な値段設定で、将来的な医療費削減に繋がる、そういった製品が今、求められています。しかも日本発の製品でそれを実現する必要があるでしょう。以下にその理由を述べていきます。
■高齢化社会と医療費
医療の高度化は寿命の延長をもたらし、近年の医療費増大に拍車をかけています。私が医師となった時の国民医療費は30兆円でしたが、15年経過した2015年には40兆円、と毎年着実に増大しています。少子化も相まって2015年の65歳以上の高齢者は総人口の26.7%(3384万人)に達し、2025年には30%、2060年には40%に達すると言われています(下図)。当然医療サービスを利用する人が増え、その費用は普段サービスを受けない健康な人や現役世代も負担します。ではその増えた医療費は何処に流れているのでしょうか?
内閣府「平成28年版高齢社会白書」より作成(2015年までは確定値・2020年以降は推計)
■国内における医療自給率はどれくらい?
日本の食糧自給率は39%(2015年度)と先進国の中でも最低レベルなのは周知の事実だと思います。一方で、日本で使用される薬剤のうち国内製薬会社の売り上げは6割程度と比較的シェアを維持しています。とはいえ、薬剤の輸出入による貿易赤字は2.4兆円(参考までに同年度の日本の貿易赤字は4.3兆円)であり、明らかに日本の貿易赤字に貢献しています。
医療機器ではより海外メーカー品のシェアが高くなっています 。市場規模3兆円のうち、国内売上げの約50%を海外メーカーが占めているのです(下図)。実際に私も循環器専門医として数々の冠動脈ステント、ペースメーカー等を留置した経験がありますが、ステントは海外製が90%、ペースメーカーは100%海外製です。他には人工弁も100%海外製ですし、人工呼吸器、眼科領域、整形外科領域でも海外メーカーの寡占状態が続いています。結果として医療機器における貿易赤字は毎年増加し、年間8000億円(2014年)に達しています。
このように薬剤・医療機器ともに関しても貿易赤字に大きく寄与しています。高齢化・医療の高度化に伴って膨れあがった医療費は、結果として海外の企業に多く持って行かれている、というのが現状なのです。残念ながらこの海外依存の体制を問題視する医師は多くありません。
厚労省「平成26年薬事工業生産動態統計」より作成
しかしながら、私が入社して半年が経過しようとしている今、自ら医療機器を開発・国内外に発信しようとする医師は少なくないと感じています。ただ、医師だけで臨床のアイデアを現実のモノにするにはあまりにもハードルが多く、それらを越えれるよう手助けしてくれるサポート体制(エコシステム)が日本には希少です。そのため夢が実現するケースが少ないのでしょう。弊社はそのエコシステムを提供出来る数少ない会社の1つです。日本のみにとどまらず、世界にチャレンジするためにぜひご活用いただければと思います。
■日本発を世界に
リオ五輪では多くのメダリストが生まれ、選手やコーチの奮闘が多くの国民に感動を与えました。オールジャパンを合い言葉に、多くの関係者が力を合わせ組織改革やトレーニングの合理化効率化を図り、それが今回実を結んだと言われています。そして4年後の東京オリンピックでは、より一層多くの感動を与えてくれるはずと私は確信しています。
一方で医療界はどうでしょうか?世界向けた発信力はまだまだですが、以前に比べ明らかに医師や企業が国外に出て行くチャンスは増えています。これからさらに発展するスポーツ界に負けじと、多くの医師・医療従事者・医療関連企業が縄張りや利害関係を超えて力を合わせ、日本の医療が世界中の患者を救う、そういった時代を実現しようではありませんか。そのために今後我々が貢献できればこれほど嬉しいことはありません。弊社サイトを訪れた皆様、これからの日本のために是非ともアイデアとお力をお貸し下さい。お問い合わせをお待ちしております。