2015.01.19

米国の環境の変化がもたらしたデジタルヘルス領域の勃興

みなさん、こんにちは。
JOMDDで経営企画と事業開発全般を担当している石倉です。
もともと年末に公開する予定の記事でしたが、年末最後の一週間は、インフルエンザにかかってしまいました。このインフルエンザ、まだまだ猛威をふるっているようですが、どうぞお体にはご自愛ください。

先月、元オバマ政権の経済政策アドバイザーで、現在は老舗ベンチャーキャピタルのVenrock社でパートナーを務めるBob Kocher氏が、以下の記事をHarvard Business Review(HBR)に寄稿されていました。
今回は、米国の環境の変化がもたらしたデジタルヘルス領域の勃興に注目してみたいと思います。

「なぜ、多くのテクノロジー企業がヘルスケア領域に事業展開をしてきているのか」
https://hbr.org/2014/12/why-so-many-tech-companies-are-getting-into-health-care


■外部環境の変化がもたらす新産業の勃興
以下に、記事のポイントを挙げてみました。
・従来よりヘルスケア領域は、新規事業を行う上では、複雑で魅力的ではないとされてきた。
・しかし昨今、多くのIT企業が新規事業としてヘルスケア領域に参入してきている。
・いくつかの外部要因の後押しもあり、ITセクターが他の産業で成し遂げてきたように、医療の非効率を改善しようとチャレンジしている。
・具体的には、以下のような事例が挙げられる。

  • オバマ政権は、通称「オバマケア」の一環として、HITECH(the Health Information Technology for Economic and Clinical Health)ACTという補助金プログラムを設けた。これは、EHR(Electronic Health Records:電子カルテ)を導入した医療機関・クリニックに対して、総額250億ドルの支援を行う制度で、これがインセンティブとなり、多くの電子カルテ関連ベンチャーが誕生した(ZocDoc、Health Catalyst、Practice Fusion)
  • オバマケア政策の一環として、ACO(Accountable Care Organization)という償還制度が開始された。これにより、多くの医療機関グループが、従来のFee-for-Service型から、アウトカムをより重視した医療経営へとシフトしつつある。2014年4月時点で、全米で480の医療グループがACOとして登録されており、全米人口の14%がACOとして登録されている医療機関にかかっていることになっている。
  • オバマケア政策の後押しに加え、新たな技術の進歩(ゲノミクス、ウェアラブル技術、モバイル・IT)により、膨大な関連データが生み出され、より個別化・最適化された医療サービスの実現を後押しし始めている。ACOとして効率的な医療サービスを提供し続けるために、新たな革新的なソフトウェアの利用が増加した。


■新産業・デジタルヘルス領域をリードする企業群
記事中に挙げられているAthenahealth社のように、米国では民間医療保険会社がデジタルヘルス領域のイノベーションをリードしています。例えば、過去数年を見てみても、医療の質を高めるために、大手民間医療保険会社は中小病院グループを買収し、逆に大手病院グループが保険会社の買収を進めてきました(図1参照)。

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大手病院グループ・医療機関は、規模を活かした積極的な姿勢を見せています。Kaiser Permanenteは患者さんとの関係を良好に保つコミュニケーションツールへ投資し、Mayo Clinicは心房細動の診断見落としを防ぐデジタルツールを試験的に導入、Duke Universityは電子カルテ最大手Epic社とApple社のHealthKitの共同プログラムを試験的に導入することが発表されています。
また、米国の医療経済政策を統括するCMS(The Centers for Medicare & Medicaid Services)が、ある一定のバーチャル診療・遠隔医療を提供する医療機関に対して、患者さん一人当たり月額42ドルを保険償還する政策を決めたことが、これら医療グループの積極的な試みをさらに後押しすることになると思われます。


■結びに
オバマ政権が始まってから、これだけの産業整備がなされてきたことが分かります。デジタルヘルス領域のベンチャーたちは、まさにこれらの環境要因の変化を敏感に感じ取り、事業を開始してきたと言えます。
今回は、ここまで米国でのトレンドを見てきましたが、日本でも同様の動きは起こり得るでしょうか。日本では、どのようなデジタルヘルス領域でチャンスがありうるでしょうか。次回は、日本でも起こりつつある環境要因の変化の事例を挙げながら、分析してみたいと思います。

それではまた次回。